うれしいこと、ワクワクするような気持ちって、そういう「何か思いついた時」
普段、何もせずにぼーっとして時間を過ごすことがあるかもしれませんが、そんな時でも、もし新しいアイデアが浮かんできたり、ワクワクするようなことを考えることができると、脳が活性化されているようです。
そこで、漫画雑誌 ガロの元編集長を7年務めた、イラストレーター 南伸坊さんのコラムをご紹介します。
漫画雑誌 ガロの元編集長の南伸坊さん、ワクワクすると脳ミソが活性化する
子どもの頃は、ボーっとしてましたね。大工さんの働いているとことか、絵ビラ屋さんが絵を描いているとことか、看板屋さんが看板仕上げてるとことか、それから近所に広告マッチのラベルを刷る、刷り師をやってるお爺さんがいて、それをじぃーっと見てたり。
おじさんに話しかけたり、仲よくなったりとかはしない。まァ、たいがいそういう職人さんているのは無口な人が多いしね。両方だまって、一方は作業してるし、一方はじぃーっと見てる。でもジャマにはされなかった。けっこう長時間、そうやってましたね。
自分が絵を描く、一種の職人になったのはこのことと無関係じゃないですね、なんか好きだったんだと思います。
ボーッとしている
親父が結核で自宅療養をしていたんで、ともかく、子どもにうつしたくなかったんでしょう。なにかっていうと、「外で遊んでこい」ってことになりました。
外で遊ぶのは嫌いじゃなかったし、当時は病人がいない家でも「子どもは風の子」っていって外で遊ぶのが普通でした。だから、特別変わった子どもってんじゃなく、相撲したり野球したり、遠くまで「匂いガラス」拾いにいったり、ガキ大将の傘下に入って遊んでた。
ただ、ちょっと、ほかの子よりもボーッとしてたかもしれないですね。床屋さんの前にあのクルクルクルクル回ってるサインポールっていうのがあるでしょう。
あの前で、ずーっと、あれ見てたりね。不思議だもんねえ、いつまでも下から湧いてきて、上の方に蒸発していくみたいな。じぃーっと見て、ナゾを解明したっていえば、立派なエピソードになるけど、今だってそんなに明快に説明できないですよ。
ただ、じぃーっと見てる。結果を出すわけじゃないんだけど、そんなふうにしてるのが好きだったんだと思いますよ。
同じようなことですが、メリーミルクって粉ミルクの缶があって、昔の人なら覚えてると思うんだけど、女の子がそのメリーミルクの缶を脇にかかえて歩いてくるっていう図柄のラベルなんですよ。
つまり女の子が缶持ってる絵があって、当然、その絵の中の子も缶を持ってる。実際には、三段階くらいで絵じゃ描けなくなっちゃうけど、いくらでも奥へ奥へと突き進んでいけるわけですね。
この間を、やっぱりじぃーっといつまでも見てましたね。もし脇から見てたら、だいじょうぶか、この子は?っていう状態だったと思う。
実際、コトバは遅い方で、夕飯のときなんかに家族で話してて、自分も話の中に入りたいのか、なんか言い出すんだけど、えーと、うーんと、えーと、えーとって、とてもラチのあかない喋り方で、みんなじれったがって、たいがい姉達に話を持ってかれてましたね。
考えてる時間は気持ちいい
今、思うんだけど、どうも、あのボーッとしてる時に「気持ちよかった」んじゃないか?結果は出ないんだけど、何かを考えてて、その考えてる時間か快感だったんじゃないか?と思ってるんですよ。
ひょっとすると、我田引水の大間違いかもしれないんですが、人工知能を研究開発されていた松本元先生という方がおられました(残念なことに、既にお亡くなりになってしまわれたんですが)コンピュータと脳の違いというのを説明されてたんです。
コンピュータっていうのは、プログラムというのがあらかじめあって、そのプログラムで演算されて、答えが出力されますね。それが今のコンピュータ。
ところが、人間の脳っていうのは、たとえば計算だったり、たとえば言語だったり、っていうのを、まず教わって覚える。
教わって、その理屈や方法がわかる。自分でプログラミングを作り上げる。その時に快感を感じるようにできてるんだそうですよ。だから、人間の脳ミソが一番活性化してるのは、外から入ってきた情報の処理をしてる段階、処理方法を模索してる段階だってことらしい。
「気持ちよかったんじゃないか?」っていうのは、サインポールをボーッと見てたり、粉ミルクの缶をじぃーっと見てたりした、その時に、自分でもよくわかんない、もちろん、覚えてもいないけど、脳ミソがものすごく活性化してて、気持ちよかったんだろうなァ、って、そんなふうに思うんです。
ワクワクすると脳ミソが活性化する
今の世の中、結果がすべてじゃないですか、結果っていうか成績ですね。プラスに評価される出力ですね。学校の勉強もそうだし会社の仕事もそう。数字ですよね。数字でわかる成績出さないと、本人もうれしくない。
成績出して、評価される。だからうれしかったり、たのしかったりする。そう、みんな思い込んでますよね。
でも、ほんとは、成績は出せなかったけど、負けおしみじゃなく、途中ですごく楽しかったり、うれしかったりしてるんだと思います。
これ、実感なんだけど、ときどき、企画を思いつくんですよ。こんな単行本つくったらおもしろいかな、とか、こんな連載やったらおかしい!とかって。たいがいこれが寝ようって時が多い。
いろいろ、アイデア思いつくと、目がどんどん冴えてきちゃって、起き上がって、メモ帳出してきて、いろいろ書きつけたりする。どんどん箇条書きに書きつらねていって、まァ「企画書」みたいなもんですね。これ書いてる時、ものすごく楽しいんです。
それで、この企画、実現したことって、ほとんどないんですよ。ずーっとたどっていったら、後々、全然違うかたちで実現してた、なんてことはあるかもしれないけど、とにかく、「即、結果出した」みないなかたちになったこと、一度もない。仕事やって、ほめられたり、思ったより原稿料がよかったりしたら、それはうれしいです。あんまり、数えるほどしか、そんなことないですけど(笑)
でも、ほんと実感としては、うれしいこと、ワクワクするような気持ちって、そういう「何か思いついた時」なんです。
さっき言ったみたいに、それ、全然結果と無関係なんですよ。結果が出る前ですから。それに、これで「成績とれる!」っていうような、将来見すえたような、そういう理性的なもんじゃない。とにかく、なんだかワクワクたのしっていう状態ですね。そうかァ、あれ、脳ミソが活性化してる時だったんだなァって。で、あんなにたのしかったんだなァって、まァ、そう思ったんですよ。
たのしいのが一番。て思うんですよ。いきなり「お金より大切なものがる」とか、「結果よりプロセスが大事」とかって言っちゃうと全然つたわらないと思うんだけど、なにしろ、本人がワクワクしたり、気持ちよかったりって、それが一番だって、ぼくは思いますネ。
イラストレーター 南伸坊さん
1947年、東京都生まれ。漫画雑誌 ガロの元編集長を7年務め、80年からフリーのイラストレーター、エッセイストとして活動を開始。近著に『本人遺産』(文藝春秋)がある。
出典:PHP平成28年9月17日号
イラストレーター南伸坊さんによる『楽しいのが一番』のまとめ
イラストレーター南伸坊さんによる『楽しいのが一番』というお話をご紹介しました。
成績とか生産性に関係なく、アイデアを考えたり企画を考えているときが楽しく、ワクワクするのは分かりますね。そして、南さんの言うとおり、そういう時は、夜寝る前だったり、寝なきゃ!というときが多かったりします。
でも、どんな時でも、その想像の時間を遮らずに、たまには楽しむ時があってもいいのかもしれませんね。
ボーッとする時間が実は脳の活性化には良いのだと分かると、これからも、ボーッとする時間を楽しみたいですね。