有名人のコラム

元F1レーサー中島悟「息子たちにレースで一位、二位を独占してほしい!」

有名人のコラム
スポンサーリンク

「夢をかなえるために、おまえはここにいるわけだから、夢に近づくために、自分はいまどうしたらいいか。そのことを常に考え、自分で努力を積み重ねて見ろ」BY中島悟

日本初「F1フル参戦レーサー」の熱き親心を語る元F1レーサー中嶋悟さんのコラムをご紹介します。

中嶋悟さんの二人の息子さんもプロのレースドライバーになり、二人とも夢をかなえられました。しかし、息子さんは英才教育を受けたわけでもなく、自分から「これをやりたい!」と決めてレースの道に入ったようです。

スポンサーリンク

結果が出なかったとしても、そのために尽くした努力は、無駄にならない。まず、やることが大切なんだ

現役時代は僕が留守の間、女房が息子たちをしっかり育ててくれて感謝しています。

自動車レースの中でも最高峰と言われるのが、時速三〇〇キロ超でサーキットを駆け抜けるF1(フォーミュラワン)です。中島悟さんは、日本人で初めてF1レースにフル参戦したドライバー。現在は、レーサーを養成する鈴鹿サーキットレーシングスクールの校長を務める一方、みずからチーム「ナカジマレーシング」を立ち上げ、監督として活躍中。二人の息子さん、一貴かずきさんと大祐だいすけさんもプロのレーシングドライバーとして、父と同じ道を歩んでいます。

FIは危険だとか、死と隣り合わせのスポーツだとか、よくいわれます。世界手に有名なレーサーのアイルトン・セナが事故死した印象があるからでしょうか。でも、FIはそれほど危険なスポーツではありません。車は基本的にアクセルとブレーキとハンドル操作だけで動きます。だから運転する人間が車を、基本に忠実に操れば、危険はないんです。

それにレーシングドライバーは、自分が乗る車に絶対的な信頼を置いています。ぶつかっても、コックピット(運転席)は守られているので、怖いとか危険だとかは思いません。

息子たちが僕と同じ道に入ったときも、「危ないからやめておけ」という発想は全くありませんでした。僕がそうだったように、息子たちも自分の好きな道を進めばいい。仮に彼らが音楽やサッカーや野球をやりたいといっても、僕はなんでも好きなようにやれ、といったと思います。

息子たちもレースの道に進みましたが「親の七光り」といわれるのは嫌だったようです。

現役時代、中嶋さんは一年の半分以上はレースで海外を転戦する生活でした。その反動からか、たまに家に戻ると、めっぽう優しいお父さんだったといいます。

子育てはほとんど女房に任せっきりでしたから、息子二人の性格がどう違うのかも、よくわからなった(笑)。それでも家に戻ったときは、息子とキャッチボールをしたり、ボールをけったり、自転車に乗って競争したりと、よく遊びました。

外国のドライバーたちは、小さいときから子供をカート(レース用の小型自動車)に乗せて英才教育をします。でも僕は息子たちに、ドライバーの英才教育をしたことはなかったんです。

ただ、一貴も大祐も、サーキットにはよく遊びに来ていました。知らず知らずのうちに、レースに興味を持ったのだと思います。息子たちあサーキットで大人の中に混じって、早くから社会のしくみを学んでいました。

女房の役割も大きかったですね。僕が仕事であまり家にいなかったにもかかわらず、息子たちが道をはずさないで育ったのは、女房のおかげです。

レーサーというのは基本的にわがままでマイペースですが、そんな僕や息子たちを一つにまとめてくれるのも、女房でした。ほんとうに感謝しています。

家ではひょうひょうとしている中嶋さんですが、サーキットでは豹変します。父の現役時代を知っている長男の一貴さんにとって、父親は尊敬の対象だったそうです。

一貴が、僕のレーシングスクールに入りたいといいだしたのは、小学校五年生のときでした。最初は遊び半分でしたが、高校に入って、トヨタのレーシングスクールでスカラシップを取ってからは、本格的にプロの道に進む覚悟をしました。

次男の大祐は、僕というより兄を見てレーサーになりたいと思ったようです。兄の後を追って、やはり小学校高学年レーシングスクールに入学し、プロの道を目指すようになりました。

息子たちが二人ともこの世界に進むことになったとき、もちろんうれしかったですよ。父親のことを評価していなかったら、同じ道に進もうとは思わないでしょう。僕の仕事を認めて、かっこいいと感じてくれていたのかと思ったら、肩の荷が下りた気がしました。

ただ息子たちは、「親の七光り」といわれるのが嫌だったようです。特に一貴は、コーチにはいろいろ質問しても、僕にはアドバイスを求めない。僕のほうも、息子から質問されても困るというか、教えようがないというのが正直なところでした。

というのも、自動車レースの世界では「この方法が正しい」という方程式がないんです。ドライバーはそれぞれ、見えている世界が違いますし、テクニックも感覚も違う。いっしょに乗って教えてやることもできません。自分で経験して、我流の方法を確立していくしかないんです。

以前、レースが終わった後、一貴が「なんでタイムが遅かったんだろう」と聞いてきたことがあります。僕は、「自分で考えればいい」と、突き放しました。遅い原因は「ブレーキ」「加速」「ハンドル操作」のどれかだと思うのですが、その答えは自分に聞いてみるしかないんです。

ただこれだけはいいました。「おまえはなんのためにここにきているのか」。

レーサーは、それぞれ夢を持っています。「F1に出場したい」「レースに勝ちたい」といった夢です。

「夢をかなえるために、おまえはここにいるわけだから、夢に近づくために、自分はいまどうしたらいいか。そのことを常に考え、自分で努力を積み重ねて見ろ」

一貴は、このアドバイスをしっかり受け止めたようです。

僕が現役時代にはっていた御札を、息子たちの車にもはる習慣を続けて完全を祈っています。

二〇〇七年、長男の一貴さんは夢だったF1デビューを飾ります。スタートラインに並ぶわが子のマシンを見たとき、中嶋さんの胸は震えました。

僕は現役時代から伊勢神宮の御札を、れーずで乗る車にはっていました。お正月、伊勢神宮へお参りに行ったさいに、御札を買って帰るんです。いまもその御札を、一貴と大祐がレースに出るとき、警備の人にはってもらっています。僕は信仰心があついわけではありませんが、無事にレースを続けてこられたので、子どもたちにも続けています。

一貴がブラジルのレースで事故を起こしたことがありました。レーサーは観戦していても、問題のない事故を危険な事故がわかりますが、そのときは一瞬「大丈夫か」と、ひやりとしました。僕は東京にいてテレビ中継を見ていました。一貴は地球の反対側です。もし大けがをしたとしても、すぐに飛んでいける距離ではありません。「ジタバタしてもしかたないんだ」と、すぐに冷静になりました。僕は割とクールなのかもしれません。息子たちの性格も僕に似て、クールなところがあります。レーサーは、どんな状況でもパニックになっていはいけない宿命があるからかもしれません。

スクールの生徒や息子たちに、「『過程』を大切にしろ」と、よくいっています。結果が出なかったとしても、そのために尽くした努力は、無駄にならない。まず、やることが大切なんだと。

僕が一貴に大学受験をさせたのも、そのためです。大学に受からなくてもいい。とにかく受験をするための努力をしろと。努力が大切なんです。

息子たちはライバルどうしですが、二人で表彰台の一位、二位を独占してほしいですね。

一貴はレースをやりながら受験勉強もして、大学に合格できました。そのことは彼の自信になっていると思います。

目標に向かって努力できた人間なら、何をやっても大丈夫です。レーサーは暑い中でもレーシングスーツを着て、狭い運転席で汗だくになって機械を操っている。精神的にも肉体的にもタフでないと、とても務まりません。

努力する過程を大切にできた人間なら、この先どんな仕事をしたって通用するでしょう。だから、僕は息子たちの将来について、何も心配していません。彼らなら、どんなところでも生きていけると、僕は確信しています。

次男の大祐さんは、今年から父親である中嶋さんのチームに所属し、フォーミュラ・ニッポンのレースで活躍しています。一貴さんも今年から活躍の場を日本に移し、同じフォーミュラ・ニッポンで、トヨタチームから参戦が決定。兄弟対決の実現です。

自分のチームの大祐も応援したいし、ライバルチームの一貴も応援したい。複雑な気持ちです。親としてホンネをいえば、息子たちが一位、二位を独占するのがゆめです。

出典:健康365 (2011年、11月号)

中嶋悟さんの経歴:

1953年生まれ。愛知県出身。
73年鈴鹿シルバーカップにてレースデビュー。
87年、日本人初のF1フルエントリードライバーとして、名門チーム・ロータスよりF1世界選手権にデビュー。入賞4回を記録し、シリーズ11位となる。
89年のオーストリアGPで、日本人として初めてファステストラップ(最速のラップタイム)を記録。
90年にイギリスのティレルに移籍。
91年に現役引退。通算308レース出場。6位入賞155回。うち3位内入賞116回。優勝は53回(クラス優勝含む)。全日本F2選手権シリーズチャンピオン5回獲得(1981、82、84~86年)。
現在はNAKAJIMA RACING総監督としてフォーミュラ・ニッポンやSUPER GTに参戦。また、鈴鹿サーキットレーシングスクール校長として若手の育成に努めている。

||| ご挨拶・中嶋悟プロフィール | NAKAJIMA RACING Official Website - スーパーフォーミュラ スーパーGT FCJ F3 F1 |||
スーパーフォーミュラ、スーパーGTに参戦中のレーシングチーム・ナカジマレーシング(NAKAJIMA RACING)の公式ウェブサイト。スーパーフォーミュラ、スーパーGTのレース結果やドライバー紹介、元F1ドライバー中嶋悟のヒストリーなどを掲載。
||| Racing Driver Kazuki Nakajima Official Website / 中嶋一貴 - WEC ル・マン SUPER GT スーパーフォーミュラ F1 |||
レーシングドライバー中嶋一貴(Kazuki Nakajima)の公式ホームページ。FIA世界耐久選手権(WEC)、スーパーGT、スーパーフォーミュラに参戦する中嶋一貴の最新情報やレースフォトを掲載。
||| レーシングドライバー 中嶋大祐 Official Website |||
レーシングドライバー中嶋大祐の公式ホームページ。中嶋大祐のプロフィールやレース結果、公式ブログへのリンク等。
タイトルとURLをコピーしました