やりたいことは、やってみて初めて自分に合うかどうかも分かるもの
女性は、結婚して子供が生まれたりすると、「子育てと仕事の両立」ということがいつも話題になりますね。その忙しい日々の中で、自分のやりたいことをやってみるにはどうしたらいいか。
90年代に大ヒットしたドラマ『東京ラブストーリー』を書いた漫画家の柴門ふみさんも、仕事をしながら、家庭では子育てに追われていたようです。
その舞台裏での思いや、彼女の人生観の書かれているコラムが目に留まりましたのでご紹介します。
ただ毎日を駆け抜けていく。それもまた、幸せの一つの形なのかもしれません。
二十三歳のときに結婚。まもなく二人の子供が生まれ、それからはまさに戦場のような日々を送ってきました。漫画やエッセイの締め切りは三日に一度やってくる。あちこちの審査員を頼まれたり、学校の役員をやったり、とにかく分刻みのスケジュールで走り回っていました。
ただ毎日を駆け抜いていく
毎朝五時半に起きて子供の弁当をつくる。子供と主人を送り出してから自分の仕事にかかる。今日はこういうスケジュールで行こうと決めたところで、なかなかその通りにはいかない。忙しいときに限って子供が熱をだしたり怪我をしたり。幸せとは、なんて悠長なことを考えている暇などありませんでした。
「子育てと仕事は、どうすれば上手に両立できるのですか」という質問を何度も受けました。その度に私は「そんなものは両立なんてできていません」と答えたものです。今もこういう悩みを持っている女性は多いと思いますが、子育てと仕事を両立させようなどと、はじめから思わないことです。
では私はどうしていたかというと、常に子供のことを一番に考えていました。もしも子育てに失敗したら、もう取り返しがつかないと思ったからです。仕事を優先させたがために子育てがうまくいかなかったら、きっと私は自分を責め続けることになる。そうなれば仕事どころではなくなるでしょう。
特に子供たちが思春期を過ぎるまでは、とにかく子供のことを最優先に考えてきました。子供がすくすくと育つことこそが、家庭の幸福の礎になる。そう信じていました。もちろんイライラしたこともある。もっと仕事に集中したいとしょっちゅう思ったものです。仕事をもっているお母さんたちは、みんな同じ気持ちだと思います。
でも、子育てには必ず終わりがあるんです。延々と続くわけではない。考えてみれば、一生のうちで子供と濃密に接する期間はたかが十数年。意外と短いものです。両立させようと悩んでいる間にも、子どもたちはどんどん成長していく。ならば悩む暇があるのなら、少しでも子供と関わること。それが母親としての役目ではないでしょうか。
今振り返ってみると、あの怒涛のような日々に、私は幸せというものを感じたことはありませんでした。いや、幸せなど感じている暇もなかったのでしょう。それでも私の人生にとっては、宝物のような大切な時期です。あれこれ悩んだり考えたりせず、ただ毎日を駆け抜けていく。それもまた、幸せの一つの形なのかもしれませんね。
幸せの形は人それぞれ
人間は何に一番幸せを感じるかによって、四つのタイプに分類されるそうです。一つ目は、所有することに幸せを感じる人。これは大様タイプ。二つ目は、相手を攻撃してやっつけることに喜びを感じる軍人タイプ。三つ目は学者タイプで、とにかく知的好奇心が旺盛で何でも知りたい。そして四つ目は物づくりに幸福を感じる職人タイプです。
もちろんどれかが突出することなく、ミックスされている人が多いでしょうが、何に幸福を感じるかは人それぞれだということです。たとえばブランドもののバッグを集めることに幸福を感じる人もいる。「そんなに集めてどうするの」といくら人から言われようと、そこに幸せを感じるのだから仕方がない。それは周囲がとやかく言うことではない。本人が幸せならばそれでいいのです。
夫婦や親子にしてもそうです。夫婦だからといって同じことに幸せを見出すとは限らないし、子どもが親と同じタイプになるとは限りません。だから、親の幸福感を子供に押し付けてはいけない。親が学者タイプだったとしても、子どもが物づくりに幸福を感じるのならば、それを認めてあげること。幸福感をはそういうものではないかと思います。人が何と言おうと、自分はこれをやりたい。これが自分にとっての幸福なんだ。幸せって、そんな我が儘なものではないでしょうか。
ただ、自分のタイプが分からなかったり、自分にとって何が幸せなのかが見つからないという人もいるでしょう。そういう人は、とにかくやりたいと思ったことをやってみる。やりたいことを我慢して、いつまでもくすぶらせていると、きっといつか爆発してしまいます。また、やってみて初めて自分に合うかどうかも分かるものです。
私の友人で、専業主婦でいることに不満を抱いている女性がいました。彼女は仕事をしたいのに、ご主人が許してくれない。家事と子育てだけの毎日。不満な気持ちがいつもくすぶっていました。
そんなときにご主人がリストラで会社を辞めることになった。さあここぞとばかりに、彼女はパートで働きにでた。仕事をしたいという願いが叶ったわけです。ところが最初は楽しかったけど、だんだんと職場の人間関係がストレスになっていった。少なくとも、その仕事が自分には向いていないことが分かったのです。
そしてご主人の再就職先が決まると同時に、彼女は再び専業主婦に戻りました。以来その友人はイキイキと主婦の生活を楽しんでいます。自分にとっての幸せは、家庭にあるんだと気づいたからです。やってみたからこそ彼女は気がついた。
もしも仕事をせずに不満を抱えたままで暮らしていたら、きっとどこかで爆発してたでしょう。少なくとも主婦の生活を嫌々ながらやっていたに違いない。それは自分にとっても家族にとっても決してプラスにはなりません。
不満を言う前に、まずやってみる
やりたいことがあるなら、とことんやることです。専業主婦が嫌で仕事をしたいのなら、「もう明日からはご飯は作りません・お母さんは働きに行きます」と宣言してしまえばいい。子供が高校を卒業したら、彼らは勝手に何でもやるでしょう。多少は家族にも負担がかかるでしょうが、不満をたらたら言っているよりはずっといい。我が儘に自分の幸せを探せばいいと思います。
他人のことを羨ましがっているのではなく、自分もやってみればいい。ブランドのバッグを買ってみるのもよし、流行している習い事をしているのもよし、いろんなことを経験してみることです。そうして手探りしながら、自分にとっての幸せを探せばいいのではないでしょうか。
今年娘は大学を卒業し、息子は大学へ入学しました。私の子育てはそれで終了なのかなと感じています。あとは二十五年連れ添った主人と気儘に向き合うだけ。世界中の美術館を回りたいし、自分が納得できる漫画も描きたい。とにかくやりたいことは何でもやってみようと考えています。
漫画家・柴門ふみ
1957年、徳島県生まれ。お茶の水女子大学教育学部哲学科卒業。79年に漫画家デビューし、以来『P.S.元気です、俊平』『東京ラブストーリー』などの作品で人気を博す。恋愛や日常生活を綴ったエッセイも幅広い層に読まれる。
出典:PHP平成28年9月17日号
漫画家・柴門ふみさんの仕事と家庭の両立についてのまとめ
漫画家の柴門ふみさんは、子育てと仕事の忙しい日々をを送られたいたようですね。90年代からは、テレビでも雑誌でも、もちろん漫画でも、柴門さんの名前を見ることは多かったので、相当忙しかったのでしょう。
日常の忙しさとは別に、自分のやりたいことがあり、そのやりたいことをでも忙しかったことは、羨まし限りですね。なぜなら、多くの人は、そのやりたいことが何なのかさえ分からない人も多いと思うからです。
柴門さんのご友人の主婦の方の話からも、とりあえず気になったこと、やってみたいことはやってみる!ということが、自分の本当のやりたいことの見つけ方なのでしょうね。