本当に好きなことでなければ、専門職での長期雇用は苦痛でしかない
内閣府の調査によると、中高年の引きこもりの人口は61万人いるそうです。
彼らは、人々から非難されるべき社会不適合者でしょうか?それとも、そこまで追い込まう今の社会の在り方に何か問題があるのでしょうか。
そこで私は、ここ20年ほどで終身雇用から専門職雇用に移り変わってきた社会的背景が原因ではないかと思うのです。
日本よりも前に終身雇用をやめ、専門職雇用に移り変わってきたアメリカと比べながら、この専門職雇用の問題を見ていきましょう。
終身雇用から専門職雇用への移り変わりから生じる長期的な問題点
米国で大学や大学院へ行き、また仕事も米国で行ってきて感じることなのですが、米国での企業は、ほとんどが専門職の採用で成り立っています。
専門職なので、自分の知識のある専門の仕事に就くということです。ですから、社内で部署の移動をすることはほぼ行われませんし、同じ職場にいて自分の給料が上がるのは、年に一度の1~2%の上昇か、部署内で昇格するしかありません。
そこで、多くの人は仕事をはじめて数年後には『ここにいても成長や昇格できるチャンスがない』と感じるのです。
マネージャーになれるのは一人、ディレクターになれるのは一人、その上は社長。もし、その会社とは別の場所に本社があるなら、本社からディレクターや社長が赴任して、昇格できる場所はマネージャーの席があるのみ。
その状況に気がついたときや、さらなる給料の上昇や、新しい何かにチャレンジしたいと思った時、多くの人の取る選択は『転職』ということになるのでしょう。
ここ最近、会社の採用・退職の口コミサイトを見ることがありました。そこで、10代後半か20代前半の若い方のコメントが目に留まりました。
「毎日同じ作業のくり返しで、将来が見えなかった」
というものなのですが、それはどんな専門職についても同じことではないでしょうか?
高給取りと呼ばれる1000万円の仕事についたところで、毎日ある程度は同じ作業を繰りかえすことになるのです。
そうなったとき、その仕事を退職するまで40~50年間続けることができるでしょうか。
本当に好きなことでなければ、毎日同じ作業の繰り返しというのは、なかなか大変なことですね。
ですから、その昔、終身雇用制度を使っていた日本では、社内での部署の移動があったのでしょう。全く同じことを40年間繰り返すのは、簡単なことではないからですね。数年ごとに部署を移動することで、気分も気持ちも代わり、新しいことに挑戦できるし、お給料は下がることはない。会社側としては、会社に忠実な人たちを辞めさせないで、退屈させないで、上手く運営しているようにみえます。転職によって、会社の内部情報を持ち出されることも減りますよね。
私はその昔、大手銀行の会計課にいましたが、毎月、四半期ごと、半年ごと、年度ごと同じことを繰り替えす仕事です。もちろん、数字そのものは変わってきますが、作業自体はまったく同じことの繰り返しです。
専門職として雇われて企業に勤める場合、どんな業種であろうとも毎日同じことをくり返すことが、ほとんどの人の仕事なのではないでしょうか。それはどんなに有名な大企業であろうとも、町の工場であろうとも、専門職の仕事というものはそういうものなのだと思います。
ですから、その仕事が本当に好きでない限り、生涯退職するまでずっと続けることは大変なことだと思います。
外資系企業は専門職を雇いますが、最初に雇われたときにどんなに情熱があったとしても、毎日、毎週、毎月、毎四半期、毎年同じことを繰り返していては、あるとき、そのガスが切れてしまうこともあるのではないでしょうか。
それをBurned Out (燃え尽きた)と言ったりするのでしょうが。。。
専門職は抜け出せない罠にかかったようなもの
そして、世の中には異職種に転職したい人もいますね。今の仕事は自分には合っていないのではないかとか、もう少し違う事にチャレンジしてみたい、というような具合にです。
そこで、終身雇用の会社で社内の異職種に移動したところで、お給料が下がることはありません。しかし、会社をかえて異職種に移ることは、また初任給からのやり直しになってしまうことがほとんどでしょう。
そうならないために、ほとんどの人は退職までの50年間、ロボットのように同じ作業の繰り返しをするのです。それが専門職であり、今の日本も専門職の雇用が増えてきており、その心はどこまで耐えることができるのか、と疑問に思うところです。
日本でも米国でも、会社の採用口コミには、専門職の場合『未来が見えない』というコメントが多くあります。専門職という採用は、急速に成長したい会社や、即戦力を求めている会社の利益のためには良いことなのかもしれませんが、どの国にいても、その専門職の仕事をこなす人の心は、闇に侵されてしまっているようにみえます。
ですから、どんなにお給料が高くても、退職率の高い会社がありますが、やはり人の心がついていっていないのかもしれませんね。
この国にとって今となっては過去の話ですが、会社内の部署を移動できる終身雇用制は、給料の安定と確実な昇給、そして新しいことに挑戦させて従業員を退屈させない、いい制度だったのかもしれませんね。
しかしある時期からそれが崩壊し、中途採用で専門職を求められる今の世界で、中高年の引きこもりも増えてしまった。。。それは、この専門職という名の元に、50年同じことを繰り返すという不安と絶望の結果、生じてしまった結果なのではないでしょうか。
それは、社会に適応できなかった人が悪いとかそういうことではなく、新卒から定年の70歳まで50年間、全く同じことをくり返すことは、心に大きな負担がかかってしまうと思いませんか。
日本では、この専門職という就職活動が活発になってきてまだ数年かもしれないけれど、今の20代の人たちがその専門職一本を50年間続けたいと思うでしょうか?
反面教師という言葉がありますが、アメリカでは終身雇用ではなく、専門職雇用に変わってから日本より長い時間がたっていますが、その結果人々は心に病を抱えるようになってしまった。要するに、米国で抗うつ薬を飲んでいる人が大勢いるのは、そのような社会的背景があるからではないでしょうか。(そのような精神的奴隷社会を構築して人の心理をコントロールすることで製薬会社は儲かりますが。。)
そこで、いつも行き着く解決策は同じ答えですが、ベーシックインカムのような生活を保障する制度があるなら、興味のあることや、挑戦したいこと、人の役に立つことに、何歳になっても積極的に挑戦しようとする人も出てくるのではないでしょうか。
また、この制度こそ、会社が行わなくなった終身雇用制度を国が行う、と言い換えることもできるかもしれませんね。ですので、これは共産主義でも社会主義でもなく、新し型の社会と呼ぶことができるでしょう。
しかし、今の社会を継続するなら、人々は自分と家族の生活のために、心を殺して仕事をしなければいけないのです。そして、その心を殺し続けることに耐えられなくなった人は、社会不適合者とか、引きこもりと言われるような状況に陥ってしまうこともあるのだと思います。
今の社会は、心の健康にも気を遣うようになってきた社会です。でしたら、なおさら専門職50年間一本勝負!という世界では、精神的に疲れ果ててしまう人も多く出てきてしまう、ということも予測しなければいけないと思いませんか。要するに、中高年の引きこもりが60万人もいると判明した時点で手を打たなければ、今後5年後、10年後、どうなってしまうのかということを先読みしなければいけないということです。
今までの世界では、人々はその心の苦しみを解決するために転職をしてきました。しかし、転職した先でも、結局は専門職の採用なので、キャリアの先が見えず、心情の行き着く先はまったく同じなのです。
専門職専門の世界こそ、奴隷制度そのものであると気がつかなければいけません。自分と家族の生活を守るためには、そこから抜け出せないのです。養う人がいながら、他職種に移動して初任給からのスタートすることは、ほぼ不可能でしょう。だから、抜けだせない奴隷制度なのです。
この国にとって、終身雇用の崩壊が、終わりの始まりだったのでしょう。
専門職は本当に好きなことであることが大事
もちろん、専門職が本当に好きなことであれば、毎日定年までの50年、幸せな日々が続くのでしょう。
大概の人の場合、好きだと思って入ってしまった専門業界でも、多くの人は2~3年後にそれが自分に合ってないと気づいているようです。そして、今の社会には解決策はありません。
資本主義や今の社会の在り方というのは、人々の心の忍耐の限界に達してきていて、そろそろ新しい仕組みを取り入れるときにきているのではないでしょうか。(社会が崩壊する前に。)
このブログでは、何度も有名人のコラムをご紹介ししていますが、多くの人は、本当に好きなことや得意なことを仕事にしているケースが多いようで、「好きを仕事にした人」は、そのような生き方を推奨しているようです。


