有名人のコラム

第1回『世界標準で生きられますか』第一章① 竹中平蔵さんってどんな思考の持ち主?

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1999年に書かれた本から、竹中平蔵さんの経済論について学んでみよう

 

最近、「竹中平蔵」という名前をベーシックインカム関連の件で聞くことがあると思いますが、この方はどのような考え方をお持ちの方かご存じですか?

私は長い間、日本を離れていたため、竹中さんが日本の経済に大きく関わっていたことを知りませんでした。ここ最近は、ニュースなどで竹中さんの名前を見ることが多々ありますが、竹中さんに対する意見は賛否両論のようです。一般では負の意見が多いようですが、テレビ出演も多いですし、政治への関わりもあるようですね。

そこで私自身、竹中さんの経済論への理解を深めるために、20年以上も前の本ですが、竹中さんが1999年に書かれた本がありましたので、ここでご紹介したいと思います。

『世界標準で生きられますか』著書:竹中平蔵・阿川尚之

本を書かれた1999年当時の著者の経歴:

竹中平蔵たけなかへいぞう:慶応義塾大学教授。1951年3月、和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒業。日本開発銀行に入行後、米国に留学し、ハーバード大学およびペンシルベニア大学客員研究員。大蔵省財政金融研究所等を経て、1996年より現職。小泉内閣の経済再生担当大臣として活躍した。

阿川尚之あがわなおゆき:慶応義塾大学教授。1951年4月、東京生まれ。慶応義塾大学在学中に、ジョージタウン大学へ留学し、同大学スクール・オブ・フォーリン・サービス卒業。ジョージタウン・ロースクールで、弁護士資格取得。ヴァージニア大学ロースクール、同志社大学でも教鞭を取る。

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第一章:国際舞台で言葉を持たない日本人

グローバリズムが個人を直撃しはじめた- 阿川

いま日本人がおかれている状況は何かと言えば、戦後日本を支えてきた経済その他のシステムがほころんで、うまく機能しなくなったということだと思います。その直接的な原因を一言で言えば、いわゆるグローバリズムの進展ということになるでしょう。人やモノだけでなく情報が国境を越えてたやすくすばやく動くようになった。そのことが個人の生き方にも直接関係するようになっています。

こういう時代には、これまでにように横並びで目立たず遅れずといった処世術は通用しなくなるでしょう。すべては個人が自分の判断と責任で人生を切り開いていかなければならない。言われてみれば当たり前のことですし、戦後の高度経済成長の時期に形成された日本システムこそが例外だということも言えますが、個々の日本人にとっては、たいへんな意識改革を必要とする事態だという感じがします。極端に言えば、日本人サラリーマンは同じ給料をもらっている外国人と同じ仕事をすることができるのかということです。

私と竹中さんは、日本人として生まれていますが、これまでアメリカとかなり縁があって、アメリカと付き合ってきました。そういう日本人である我々が、アメリカと付き合うということを個人としてどうみているか、そのへんの話も交えながらお話し出来ればと思っています。

まずはじめに、この一月(1999年)にダボス会議に出席されたそうですが、ダボス会議は、いまの日本が国際社会の中で置かれている立場を象徴するような会議だと思います。会議の内容を含めて竹中さんの印象をお聞き出来たらと思います。

ダボス会議は国際的なIRの場である― 竹中

来年はぜひ阿川さんも一緒に行きましょう。

ダボス会議というのは、ご承知だと思いますけれども、正式にはワールド・エコノミック・フォーラムという名称で、シュワッブ博士が主宰する財団法人が29年前に始めたものです。会議が開かれるダボスはチューリッヒから南東150キロぐらいのところにあって、鉄道で一回乗り換えていくか、車をチャーターして二時間ほどの、スキーで有名なリゾート地です。

小さな村で、アルプスの谷間にある、絵にかいたようなスキーの街ですが、世界のVIPが数多く来るわけですから、街の入り口で厳しいチェックがあります。町全体がカンファレンス一色に染まっていて、街のなかを「ワールド・エコノミック・フォーラム」と書いたシャトルバスが走り回っていて、みんな乗り放題になっている。もちろんスキー客もたくさんいます。

今回、私は経済戦略会議のことを話すために行きました。私がいたのは二日間だけでしたが、強烈な印象を持ちました。カンファレンスホールや廊下でみんながコーヒーを飲んで会合が始まるのを待っていたのですが、そこにどこかで見たような人がいるなと思ったら、エジプトのムバラク大統領でした。ほかにも、次のセッションに出るインドネシアのギナンジャール経済相や、インドとメキシコの大蔵大臣がいたり、その次のセッションになると、ビル・ゲイツやジョージ・ソロスがいて、ヘンリー・キッセンジャーもパネリストとして出ている。

何でこれほど人が集まるのかということですが、この会議をずっと見ているある日本のジャーナリストが、これは国際的なIR(インベスター・リレーションズ=投資家に対する広報活動)の場だと、端的に表現していました。

会社の経営者というのは、自分の会社はこんなに立派にやっていますということを、投資家だけではなくて、関係者に幅広く示す義務があるわけですね。同じことを国という単位に当てはめるなら、各国のリーダーたち、つまり大統領、首相や主要大臣は、自国の現状と将来展望について、このダボス会議のような場所で世界に向けてきちんと説明しなければならない。世界の政治リーダーはそういう責務を担っているからこそ、あんなに忙しいスケジュールを割いてみんなやってくるわけですね。

だから、経済政策に関する国際世論、その時々のキーワードというのは、ダボス会議から生まれているという感じがしました。

三年前ぐらいですが、シュワッブ博士が開会演説のなかで、「ザ・ファースト・イート・ザ・スロー」(The First eat the Slow)と言っている。「早いものが遅い者を食べてしまう」ということです。いままでは、ビッグ・イート・スモール(Big eat Small)だったけれども、これからはファースト・イート・スローになるという。そういうふうに非常にシンボリックに今のマーケットの変質を表しました。これは日本でも流行語になりましたから、ご存じの方も多いと思いますが、こうしたキーワードがダボス会議から発信されるのです。

英語で魅力的なコミュニケーションができない人はリーダーになってはいけないー竹中

では今年のキーワードは何だったかというと、これはぜひ阿川さんにもいろいろなところに広めていただきたいんですが、今年最も受けた言葉は、アメリカのゴア副大統領の言葉です。ゴア副大統領が三〇分ぐらい話したうちの五分間ぐらいを日本のことに咲いていて、その演説の最後にゴア副大統領はこう言ったんです。「プリーズ・ジャパン・ウィ・ニード・ユア・ヘルプ」(Please japan, We need your help)です。これは厳しいメッセージです。日本に対する期待の大きさと、その裏返しとして不満の大きさの表明です。日本は何をやっているんだということです。

これはまた、別の機会にあるエコノミストに言われたのですが、各国は今どこも深刻な問題を抱えているが、日本という国はそういう問題を解決するリソース、資源を持っている数少ない国ではないかと言うのです。貯蓄があって、お金があって、人材がいて、少なくとも法律の上では基礎はそろっていて、何でもできるはずなのにそれをやっていないというメッセージだったんです。

だからそういうIRの場で日本のリーダーが、「いや、日本はそうではない。ちょっと遅れたことはあったけれども、こんなにやっているんだ」ということを言う必要がある。ところが、日本の閣僚がダボス会議に出ることはない。なぜ日本の閣僚がいかないのかご存じでしょうか。

もちろん最大の理由は国会ですが、もう一つは、たぶん英語でのスピーチのできる人がいないということです。これはちょっと飛躍になりますが、シンボリックには重要なメッセージだと私は思います。国においても企業においても、英語で魅力的にコミュニケーションできない人は、私はリーダーになるべきではないと思います。これからのリーダーに英語の能力は必須だということです。

今年、日本から加藤紘一さんが来ていて、加藤さんは英語でやって、よくやったという人もいましたが、リー・クワンユーと並んで扱われて、リー・クワンユーを相手にするのは日本人にはちょっとしんどい仕事です。

リー・クワンユーの皮肉を切り返せなかった加藤紘一― 阿川 

リー・クワンユーがけっこう加藤さんに対して皮肉を言ったということを、会議に出席した友人から聞きました。そのことに加藤さんは全然気がついていないみたいだったということです。

日本には国際的なIRに対する戦略が欠落しているー竹中

私は加藤さんとは入れ違いで会えませんでしたから、実際のところは知りませんが、十分には答えられなかったようですね。

いずれにしても、日本は国会の事情でいけないというのは、社内会議の古いしきたりがあるので、その日程を優先させてIRをおろそかにしている会社みたいなものですから、そんな会社の社長が信任されるはずがありません。

ダボスに行ってグローバルなディスカッションの場でコミュニケートできる能力があるかどうかということの重要性と、まさに国際的なIRに対する日本の戦略のなさということを、残念なことですが、痛烈に感じました。

続く・・・第2回『世界標準で生きられますか』第一章② 著者:竹中平蔵・阿川尚之

出典:『世界標準で生きられますか』著書:竹中平蔵・阿川尚之 (1999年)

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「第一章① ダボス会議で世界の方針を決めること」のまとめ

竹中さんは、1999年の時に、今後はファースト・イート・スロー(早いものが遅いものを食べる)ということを言っていますが、2020年の世界に生きてる私たちにとっては、その両方「大きなものが小さい者を食べる」と「早いものが遅いものを食べる」の世界に生きているように感じますね。

たとえば、アマゾンはほとんどの小さな書店を食べ、自らが大きな書店に成り代わりました。もちろん今では本だけではなく、ありとあらゆるものを取り扱う大きなショッピングモールになりました。

そして、世界中に溢れる情報というのは、誰がいち早く最新情報を得たか、また誰がいち早く最新の何かを開発したかによって勝者が決まってしまう。

また後半部分では、竹中さんはリーダーは英語を話す必要があると言っていますが、2020年のテクノロジーではその必要はないですね。AIが全て同時翻訳できる世界なのですから。

そして、人には向き不向きというものがあり、外国語が不向きな者であっても、政治的には最適な人もいるかもしれません。そして、英語以外の言語を学ぼうとしない英語しか話さない人が、英語を世界共通語としてゴリ押ししようとしている姿勢自体が高慢であると気がつかなければいけません。

それより、各国の代表は自国の言葉を話し、会議に参加できない自国の人にもそのメッセージが届く努力をし、また参加する各国のリーダーは、自分とは違う言語を話す他国の人々を尊重できる人であってほしいと思います。

参考:竹中平蔵公式サイト

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