『世界標準で生きられますか』官僚制度の呪縛をどう解き放つか
今回は第8 回目になる、竹中平蔵さんと阿川尚之さんにより1999年に書かれた『世界標準で生きられますか?』という本を読んでいきます。
今回の8回目は、『第五章:官僚制度の呪縛をどう解き放つか』です。
♦第4回:第三章①「日本を繁栄させたシステムがいま機能しなくなった」
♦第5回:第三章②「日本を繁栄させたシステムがいま機能しなくなった」
第五章:官僚制度の呪縛をどう解き放つか
外務省の外交一元化はプルーラリズムに反しているー竹中
明治政府が推進した開発独裁というのは、まさに独裁ですから、プルーラリズムにまったく反するシステムだった。それが日本の官僚制度です。
じつはその典型なのが外交です。外交一元化というのは、明らかにプルーラリズムに反している。私は外交を、少なくとも外務省だけに一元化する必要はないと思います。外交にも何段階かの外交があっていい。アメリカはUSTRと国務省が争っている。決して一元外交ではありません。
ところで日本の外交一元化というのは何を意味するかご存じですか。
外交一元化は外務省が省益を確保するための論理かー阿川
外交は外務省の専管事項であって、外務省に全部やらせるということですね。
「公電」を通さなければファックスを遅らせないという外務省の横暴ー竹中
それを具体的に言うと、電話やファックスを自由に使わせないということなんです。全部大使館を通してやれということです。それを「公電」と言うんですね。その「公電」がたくさん積み上がって、何が何だか分からなくなっている。だからどうするかというと、大蔵省は国際金融情報センターという外郭団体をワシントンンに置いて、そこのファックスでやっています。通産省はジェトロです。
縦の関係はいいが、横のコーディネーションができていない日本外交― 阿川
通産省は産業調査員と呼ばれる人たちをニューヨークにおいて、ワシントンにシャトルで毎日のように通わせている。ワシントンの日本大使館に籍を置く通産省の役人には、数に制限があるからです。外務省と通産省と仲良くやればいいと思うのですが、縦の関係はよくできていても、横のコーディネーションがあまりないような感じがしますね。ウィリアムズバーグ・サミットのとき日本航空ワシントン支社の人に聞いたのですが、大蔵、外務、通産、ロジスティックスが全く別なんですってね。
大蔵も通産も一つの会社になってしまったー竹中
そこを突き詰めていくと、やはり雇用形態の問題になります。大蔵省の官僚というのは、政策の専門家とか、日本国に奉仕するための官僚ではなくて、大蔵省という一つの会社の社員なんですよ。通産省の官僚は、通産省という一つの会社の社員です。私はこの問題は最後には雇用形態というところに行き着くような気がします。
話し方まで似てくる官僚たちー阿川
例えば通産省なら通産省のなかで話していさえすればお互いにわかるという安心感を大切にしてきたところがある。同じ役所の官僚同士だと話し方まで似てきますからね。私はいつも気になっているのですが、通産省の人は目途を「めど」と言わないで、「もくと」と言うでしょう。間違いではないけれど。大蔵の人は「我が社」とも言う。
閉鎖集団の悪いところが全部出ているー竹中
ジャーゴンが飛び交うわけです。ジャーゴンを使う集団というのは、閉鎖集団ということです。外部に向かって開かれていない。
天下りを禁止するだけでは問題は解決しない― 阿川
雇用形態ということで言うと、もう一つの典型は、天下りの問題です。いま天下りをだめだと言われると、みんなどこにも行くところがない。ある意味ではかわいそうですよ。
セイフティネットの欠陥が日本の不安の原因ー竹中
いま変革が言われながらなかなか変革できない。その変革を拒んでいる最大の理由は、官も民もそこなんです。個人としてはセイフティネットを求めなければならない。これまでは、最大のセイフティネットは企業だったんです。会社だったんだと思うんです。終身雇用というのは、基本的には不況になっても首を切られない。かつ年功序列ですから、年とともにある程度の待遇を保証する。こんな手厚いセイフティネットはありません。もちろん、個人は企業にしばりつけられるというコストを負担しますが・・・・。住宅手当をくれるし、社宅をくれる。企業年金もあって、第二、第三の就職先まで面倒を見てくれる。
その最大のセイフティネットである企業の雇用システムが揺らいでいることが、いまの日本の不安の根源になっている。ですから我々がいま何を求められているかというと、会社にかわるセイフティネットをどう作るかということになります。
セイフティネットについては、わたしはアメリカの例が非常に参考になると思っています。一つは、会社というセイフティネットがなくなるとすれば、残る最大のセイフティネットは自分の能力であるという考え方です。失業してももう一度チャレンジできる。倒産しても、もう一回企業をおこせる。もちろんそれを支えるような破産法とかそういうものも必要ですが、最大のセイフティネットである人的資源を高めるということを、我々がどの程度真面目に考えるかにかかっている。これも結局、教育の問題になります。
同時に重要なのは、敗者復活のルールを入れることです。敗者復活のルールという点において、プルーラリズムの国アメリカから日本が学ぶことは非常に大きと思います。
(続く・・・・)