有名人のコラム

第9回『世界標準で生きられますか』第六章:日本にいま必要なのは「やめる」戦略

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『世界標準で生きられますか』第六章:日本にいま必要なのは「やめる」戦略

今回は第9回目になる、竹中平蔵さんと阿川尚之さんにより1999年に書かれた『世界標準で生きられますか?』という本を読んでいきます。

今回の9回目は、『第六章:日本にいま必要なのは「やめる」戦略』です。

♦第1回:第一章①「国際舞台で言葉を持たない日本人」

♦第2回:第一章②「国際舞台で言葉を持たない日本人」

♦第3回:第二章は「日本人はなぜ尊敬されなくなったか」

♦第4回:第三章①「日本を繁栄させたシステムがいま機能しなくなった」

♦第5回:第三章②「日本を繁栄させたシステムがいま機能しなくなった」

♦第6回:第四章①「法の機能不全が日本をだめにする」

♦第7回:第四章②「法の機能不全が日本をだめにする」

♦第8回:第五章:官僚制度の呪縛をどう解き放つか

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第六章:日本にいま必要なのは「やめる」戦略

社長を自殺させる日本、何度での敗者復活がある台湾とアメリカー阿川

日本では中小企業の倒産が増えていて、社長が首を吊って自殺してしまうということが続いています。日本の社長は会社を倒産させると社会的に抹殺されてしまう。ところが台湾とか、アメリカでは、つぶれた直後に平気でまた新しい会社をつくったりする。社会がそれを認めている。会社がつぶれたのなら、法律的にそれを処理すればいい。それで個人の可能性が全部つぶされるわけではない。

破産法が適切に運用されていないー竹中

日本にも破産法があるわけですから、破産してやり直すことができるはずです。ところが、社会的に葬られるという言い方がよくされる。それはまた法律のエンフォースメントの問題ですね。

ベンチャーが起こらないのは敗者復活を認めない社会風土の問題ー阿川

著書『アメリカの民主政治』で知られるトクヴィルが一八三一年にアメリカを訪れたときに、不思議な体験をいろいろしたと書いています。その一つに、破産した男が平気でいるというのがあります。五回破産してまた新しい仕事を始めた男に会ってびっくりしたなどと日記に書いている。

結局、社会の活力にとって重要なのは、何度でもチャレンジできる社会環境の問題のような気がします。失敗したら社会的に葬られているんでは、だれもベンチャーを起こそうという気になりません。

日本では創業者が会社にしがみつくからだめになるー竹中

ベンチャーについては、おもしろい現象が一つあります。ベンチャーの定義にもよりますが、アメリカのベンチャーのうち、創業者がCEOになっている例は一〇パーセントぐらいしかないそうです。要するに会社をつくる能力と、それを大きくする、運営する能力というのは違う。立ち上げるところまでやったらそれを高く売って、別の事業をまた始めるなり、遊んで暮らすなりするのが自然だということをこの数字は示しているわけです。

ところが、日本でベンチャーの旗手と言われている人たちは、みんな創業者がそのまま社長になってやめません。日本の場合は、企業をつくるということよりも、どうやら「社長であること」に意味がある。別の解釈をすると、創業した会社を一回売ってしまって、またつくるというのはものすごくリスクがあるということかもしれません。

シリコングラフィックスをつくったジム・クラークは、その後、インターネット閲覧ソフトで有名なネットスケープ社の創設に関係して会長になっている。そんな人は日本には絶対いません。いま日本でベンチャー三銃士と言われているパソナの南部靖之さんにしても、HISの澤田秀雄さんにしても、ソフトバンクの孫正義さんにしても、御三家が社長でいることにやはり意味があるんですね、と本人を冷やかしたことがあります。結局そこのスタートアップのためのシステムということになるんですね。

日本人がいまか学ぶべきは、やめ方であるー阿川

アメリカと日本の比較で言うと、日本はいろいろなことをやめにくい社会なんです。日本の会社が破綻するとなぜあんな悲惨な目にあうのかというと、途中でやめられないからなんです。会社もやめられないし、従業員もやめられない。「もうやめよう」と言えないで、無理して引っ張ってしまったのが長銀とか山一證券でしょう。破綻に至る前に、社員に対してこのへんでやめて、どこか転職先があれば行くようにと言っていたら、半分ぐらいの人は助かったと思います。それを最後まで引っ張ってしまったから、社長が涙の記者会見をすることになる。

これは石川好さんがやはりIBMの伊豆会議で言っていましたが、「日本人がいまから学ぶべき最大のことは、どうやって早くやめるかだ」と。

日本では、政治家にしてもやめられない。彼らはやめた後、することがないんです。アメリカでびっくりするのは、この間まで下院議員だった人がコンサルタントの名刺を配っていたりする。こういうことは、日本ではなかなかできない。

湾岸戦争の時にウィルソンという国防総省の広報官がいて、チェイニー国防長官のすぐ下で重大発表を一手に引き受けてやっていた。それで全国的に名が上がった人物です。湾岸戦争が終わったとアメリカに出張して、ホテルの部屋でテレビをつけて見ていたら、女子フィギアスケート選手のトーニャ・ハーディングが暴行に荷担したという事件のニュースが流れている。どこかで聞き覚えのある声だなと思ったら、何とリポートしていたのがウィルソン氏でした。たとえて言えば、外務報道官の沼田さんが突然TBSのワイドショーのリポーターに転身したようなものです。その国はそういう転身をしても平気なんです。ところが日本では、外務管の報道官までやっっちゃうと民放のリポーターにはなれないという感覚があって、そういうことを阻害している面がある。

参議院銀の椎名素夫さんにお会いしたときに、「いったん政治家になると、まわりがなかなかやめさせてくれない」と言っていました。

個人にも出口戦略が必要ー竹中

アメリカの経営戦略のときに必ず出てくる言葉で、「イグジット・ストラテジー」という言葉があります。いわゆる出口戦略です。企業には、例えばベンチャーを起こして、何年間か利益率が下回ると絶対やめるという基準があります。それは個人にも当てはまります。個人もどこかでイグジット・ストラテジーを持つ。労働があまりにもきつすぎるとか、所得が思うほどのびないとか、そうなったらイグジットする。これは個人の問題ですが、同時に、イグジットした場合に、別のオポチュニティーがあるという社会整備も必要になります。

「労働の流動性」は「居心地のよさ」とトレードオフの関係にあるー阿川

太平洋戦争においても、日本にはイグジット・ストラテジーがなかったんだと思います。開戦の理由についてはハル・ノートがとてものめる内容ではなかったとかいろいろ言えますが、イグジット・ストラテジーなしで戦ってはいけなかった。もっとも、英語力もなかったみたいですけれど。真珠湾の直前まで対米交渉を指揮していた野村吉三郎大使は海軍では英語遣いで有名でしたが、じつは英語があまり通じなかったという話があります(笑)。

冗談はさておいて、労働の流動性の話に戻ると、アメリカ人を見ていていつも感心するのは、アメリカ人は失職すると、トレーラーに家財道具を載せて、東海岸から西海岸へ行ったり、西海岸から東海岸へ移動することをなんとも思っていないところです。チャンスを見つけるために移動することをいとわないあのパワーはすごい。

ただ、いままでプルーラリズムや、イグジット・ストラテジーのことなどを取り上げてアメリカのダイナミズムに学ぼうという話をしてきましたが、そうなるとある意味でいままでの日本の居心地のよさみたいなものがなくなってくる。文化的な問題としてそのことを言う人たちがたくさんいます。ただ経済と文化が切り離せないものだという文化主義的な人々に共通しているのは、ではどうするのかということに対する答えは何もないことです。

日本人にはもはや選択肢はないー竹中

いま日本で起こっている変化というのは、外から求められた偏あkです。これしか我々には選択肢はありません。最大の問題は、いつも言っていることですが、我々は日本経済が変わったことを、バブルが崩壊したからだと言いますが、そうではありません。この九年の間いに世界は変わってしまったからです。マーケットの圧力がいままでの二七億人の経済から五五億人の経済になって、コンペティター(競争相手)が二七億から五五億になった。これはチャンスだというふうにみんな思いだしたから、世界中が猛烈な競争を始めた。そうなってくると、いままでのシステムというのはどうみても整合的ではないということになってしまった。

それを前提にして、先ほど居心地のいい日本のよさがなくなると言う人がいると言われましたが、じつはそのことによってある意味で居心地がよくなる面があるのです。例えば、間違って終身雇用の会社に入ってしまった人なんか大変です。一生悶々として暮らすわけですから、その人にとっては間違いなく居心地がよくない。すべてポジティブな面とネガティブな面があるわけで、それをエンジョイするという気持ちを持つしかありません。

そういった意味では、敗者復活のルールとして、ぜひやらなければいけないことが二つあります。一つはコミュニティカレッジです。コミュニティカレッジというのは、敗者復活を具現化して、国民にはっきりとした夢を見させる最大の方法だと私は思います。

アメリカではいま、コミュニティカレッジが二〇〇〇ぐらいありますが、みんなただみたいな値段で入学できる。無条件で入れるんです。そこで頑張りさえすれば、メジャーのいい大学に移ることができる。どんな人でも努力さえすれば、敗者復活ができる非常にわかりやすいルートになっています。

もう一つは、それを経済的に支えるものとしての教育バウチャーです。バウチャーというのは、切符のことで、教育バウチャーの場合は、授業を受けられるクーポンを考えていただければいい。この教育バウチャーというのは、ノーベル賞をとったシカゴ大学のベッカー教授が以前から言っていることで、あまり国レベルでやった例はありませんが、今度、経済戦略会議で主張して政策提言の一つとして入りました。

具体的には職業訓練バウチャー、保育バウチャーなどを組み合わせて教育バウチャーをやれば、日本は本当に変わると思います。

まず、全国の駅弁大学をコミュニティカレッジにしてしまう。次に河合塾と代々木ゼミナールに職業訓練に入ってきてもらう。これが日本を大きく開ける起爆剤になると思います。

教育バウチャーがいいのは、非常に日本人に向いているということです。日本人は世界に誇るべき勤勉性を持っています。教育機会さえ与えられれば、日本の人たちは、それぞれの可能性に果敢に挑戦し、新たな人生を切り開いていくのではないでしょうか。

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