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現実から逃げない・抵抗しない。現実を素直に受け止めたほうが、傷は少ないから

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困った事態には、自ら積極的に取り組むことが大事― 医学博士・渡辺登

自分だけではどうすることも出来ず、相手がいるから不幸を感じることってありますよね。

例えば、人間関係のことであったり、友人関係のことであったり、夫婦間のことであったり。そんな時、自分だけの力ではどうすることも出来ない時、現実を受け入れることで新しい一歩が踏み出せるのかもしれません。

ここでは、医学博士の渡辺登さんによる、つらい時、苦しい時などにどうすればよいのかの心の対処法についてご紹介します。

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みずから積極的に取り組もう『パニック障害』著者:渡辺登(医学博士)

つらい時、苦しい時、どうすれば、明るく前向きな心を取り戻すことができるのでしょうか。

物事が行き詰った事態は、今までの生き方に無理があったことを教えています。苦しみは、新しい生き方を見出すようにと伝えているのです。

ところが、悪くなるばかりの現実と向き合い、困難に取り組むのは簡単なことではありません。とりわけ人間関係では、相手を責めたり、過去を悔んだり、不幸な自分を嘆くばかりで、見通しがつきません。人を頼っても、傷を深めるだけです。

窮地から立ち上がるには、本人の努力や工夫以外にはありません。だからこそ、苦難に立ち向かい得られた生き方は、尊いものです。

ある女性は、夫から見放され独りぼっちになってしまいました。一時は絶望感に支配され、死さえ考えました。しかし、転げながらも様々な人々と出会い、彼女は新しい自分の生き方を見つけだしたのです。

物事がうまくいかない時に、どのような心構えで過ごせばよいかを、彼女のケースを通して紹介しようと思います。

自分が変わらないと、相手は変わらない

ある晩秋の朝、山下浩子さん(仮名・三十歳・主婦)は私の診察室を訪れました。受診の理由を尋ねると、こう答えました。

「三か月前から、朝早く目が覚めてしまって、その後はもう寝られません。食事も一日一回しかくちにできません」

不眠の原因は何なのだろうと私が考えていると、浩子さんは小声で話を続けました。

「夫が『離婚したい』と言い、家を出て行ってしまったのです。離婚の理由もわからないまま。どうしたらいいでしょうか・・・・」

不眠は睡眠薬で解消できます。しかし夫婦間の問題は、当事者たちの手で解決しなければなりません。私は彼女に伝えました。

「ご夫婦のことは、お二人で相談して決めましょう。お手伝いはできません」

浩子さんはうなずき、「友達は、『今は我慢して待ってなさい。そうすれば旦那さんは、きっと戻ってくるわ』と言ってくれました。じっと待とうと思います」と語ったのです。でも、彼女は待てませんでした。

一週間後、浩子さんは私の許を訪れ、さっそく訴えました。

「今の独りぼっちの生活に疲れました。知らないうちにガス栓を開いたりしています。先生、お願いですから、夫に私を暮らすように言ってください。説得してください」

浩子さんは夫婦間の調整を私に依頼したのです。私は、浩子さんのしがみつくような勢いに圧倒されそうでした。けれども、「寂しい気持ちでは心はいっぱいでしょう。しかし夫婦の問題は夫婦で考えましょう。なぜなら自分が変わらないと、相手は変わらないからです」と話して、頼みを断りました。

その後、彼女は離婚を決意しました。夫との話し合いがまとまらなかったからです。二人で暮らした家を出て、アパートを借り、就職先をさがし始めました。

でも、心はまだ揺れていました。同級生が心配して訪ねてくれても、興味本位で来たとしか思えません。人が怖く感じて、頼っていいのかどうかわからなくなっていたからです。突然、胸がドキドキしたり、手に汗をびっしょりかくこともありました。

現実を素直に受け止める

そんな彼女が変わってきたのは、いろいろな人々との出会いがきっかけでした。新しい職場の同僚、アパートの隣人、毎夜の散歩で知り合った女性、故郷に帰った時の同級生、それにお寺のお坊さんもいたのです。

夫によって傷つけられた心は、友人たちによって癒されました。すると自分や周囲が見えてきたのです。

「今までは、夫の指示通りに生きてきました。自分の存在が無いままだったのです。これからは、自分のために生きたい。そんな気持ちになってきました。失敗しても、間違ってもいいんです。自分で決めたことなら」

「自分は独りだと思っていましたが、人は見てくれていました。心を開いたら、周りの人が私を見守ってくれていることに気がついたのです」

浩子さんの表情が変わってきました。硬さが消え、ふっくらした優しさが浮かび上がってきたのです。目の輝きも増しました。

当初、彼女は夫に恨みや憎しみを抱いていました。でも「夫はわがままな生き方しかできない人だ」と思い、許すようになったのです。

「現実から逃げない。現実に抵抗しない。現実を素直に受け止めたほうが、傷は少ないから」と静かに語り、浩子さんは診察室を後にしました。

上手くいかない時こそ明るく

物事が上手く運ばない時に、人に頼っても空回りします。浩子さんは夫婦関係の調整を私に頼んだものの、断られました。

困った事態には、自ら積極的に取り組まなくてはなりません。現状を冷静に客観的に把握して、見通しを立ててみたり、信頼できる人からアドバイスを得るのです。

浩子さんのケースを参考に、上手くいかない時の心の持ち主について五項目を挙げてみましたので、参考にしてみてください。

1.困難は、挑戦しがいのあるものと前向きに受け止めよう。

2.解決する能力は、十分に備わっていると自覚しよう。

3.周囲の人々から温かく見守られれいると自負しよう。

4.もし失敗しても、将来への成長の糧になると考え、希望を見失わないようにしよう。

5.こうあってほしいと思うから敵意や絶望を抱いてしまう。相手や現実を許そうとする勇気を持とう。

医学博士・赤坂診療所所長・渡辺登

1950年、静岡生まれ。日本大学大学院医学研究所博士課程修了。著書に『パニック障害』(講談社)他多数。

 

参考:赤坂診療所公式サイト
出典:PHP平成28年8月10日号

 

 

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